|
『Twilight』
※たまにはこんな書き方もありかとw
(1主サイド)
久しぶりに校門を通り抜ける。春に咲き誇っていた桜からも落葉が舞い散る。あれから8か月……。もうすぐ文化祭だからか、生徒達が忙しそうに働いている。音楽室の方からは懐かしい吹奏楽部の演奏が流れる。時折、止まっては何度も同じフレーズを繰り返す。
卒業式の後、私は女子生徒の間でうわさになっていた教会に行ってみた。だけど、残念ながら扉は開かず、代わりに氷室先生がそこにいた。落ち込む私を元気づけようと何度もドライブに誘ってもらって、そのたびにいろいろな話をして……、本当に好きだったのは誰だったのかやっと分かった気がする。もっと早く気づいていれば良かった。そうしたら、きっとこんなに苦しまなくて済んだかもしれない。もしかしたらそれは氷室先生に会う口実をなくすのかもしれない。でも、このままでは先生に迷惑をかけてしまう気がする。だから、ちゃんと話そう。結果を恐れていても仕方ないもの。
来客用の玄関を通り抜けて、音楽室へと歩を進める。少しづつ大きくなる吹奏楽部の音色と私の鼓動。ああ、どうしよう!緊張が顔をこわばらせていく。ノックしても聞こえるかどうかだけど、しないと失礼にあたるし……そんなことばかりが脳内をよぎっていく。とりあえず演奏が途切れた瞬間を狙うしかない。でもこの曲は私たちの時はやってないから、どこで切れるのだろう?……困ったなあ。その時、いきなり目の前のドアが開く。私に気づかずに、先生が廊下の向こう側へ歩いていく。……追いつかなきゃ。
「先生!」
とっさに背後から抱きついてしまった。じゃないと、どこかに行っちゃいそうで。
「き、君はいつの間に!」
驚いた声が頭上から聞こえる。だけど、それは一瞬のことで。
「……ここは学園内だ。いくら君が今私の生徒ではないとしてもだな。」
「先生に会いたかったんです!どうしても、今日!」
「わ、わかったから。手を離しなさい。」
運よく、廊下には誰も出てこなかった。だからきっと少しだけ私のワガママ聞いてくれたのかな?
「……で、今日はなぜ俺に会いたくなったんだ?」
「お誕生日おめでとうございます。……あってますよね?」
「まあ、そうだが。」
「生徒からは贈答品を受け取らないんでしたよね?でも、元生徒からはどうですか?」
私は精いっぱいの笑顔で小さな包みを先生に押し付ける。……お願い、もらってください!
「……まったく、君は。」
一瞬だけ表情が緩んだ気がした。
「特別だ。開けるぞ……。ほう、君らしいな。」
限りなくシルバーに近いけれどほんの少しだけブルー。偶然入った文房具店で見つけた美しい万年筆。光の角度によってほんの少しだけ色が変化する。手になじませるように、何度もタクトを振るように空中に字を連ねていく。
―ありがとう。気に入った。
「実は……。」
ああ、ちゃんと言わなきゃ!
「本当に好きな人が誰か気づきました。……その人はすごく背が高くて、厳しいことも言うけれど本当は優しくていい人で。」
その人は……真赤な顔して肩に手を置いた。
「家まで送る。……続きは車の中で聞こう。」
夕日に包まれて、廊下を歩く。影が寄り添うように長く続いていた。
(氷室サイド)
早いものだ。卒業式の後、君は教会の前で呆然としていた。叶うであろう恋に破れ、どうしようもなく立ち尽くす君に俺はできる限りのことをしたいと切に思った。君に恋人ができるまでのモラトリアム、それでもいい。いつか俺は君の中で過去になっていくのだろう。
4月に入り、いつもの年のように新入生たちが真新しい教科書の香りとともにあふれかえる。いつもと同じはずの4月、だけどそこには君はいない。新しく受け持つことになった生徒たちの名を呼びつつも、つい先日までそこにいた君の面影を眼で追ってしまう。……困った元生徒だ。
季節は巡っていく。体育祭、1学期期末考査、夏休み、合宿……、いや特別な行事のときだけではない。ふとした拍子に君ならどうするだろう、どう答えるだろうと思ってしまう俺がいる。そのたびに、「気分転換」と称して、君をドライブに誘ってしまう。あくまで「親友」として、俺の本心を隠しつながら。
もうすぐ文化祭だが、その前に面倒な行事がやってくる。どこから聞きつけたのか、俺に誕生日プレゼントを渡そうとする生徒達が毎年数人は存在する。去年までは君もその一人だった。俺は「生徒からの贈答品は受け取れない」と言うと、たいていはあきらめたように去っていく。唯一、明らかに残念そうな表情をしたのは君だけだ。なぜかはわからないが、忘れたくても忘れられないものだ。……よそう、こんなことを考えていても君はここにいないのだから。音楽室のドアに手をかけて廊下に出たとき、ふいに懐かしい声が背後から聞こえた。
「先生!」
その時、どうやらとっさに抱きつかれたらしい。背中からかすかに君の香りがする。
「き、君はいつの間に!……ここは学園内だ。いくら君が今私の生徒ではないとしてもだな。」
なぜ、ここに君がいる?なぜ、俺を君は抱きとめようとする?疑問が次々とわきあがる。
「先生に会いたかったんです!どうしても、今日!」
とにかく落ち着かなければ。それに……ここは学園内だ。俺はともかく、君がこんな所を見られたらいろいろまずいのではなかろうか?
「わ、わかったから。手を離しなさい。」
やっとのことで手を離す。君の表情を確かめるために、向きを変えて正対する。
「……で、今日はなぜ俺に会いたくなったんだ?」
ひそかに期待していた。ただ、会うのではなくせいぜい電話かメールだと思っていた。
「お誕生日おめでとうございます。……あってますよね?」
動揺を気づかれないようにしなければ。
「まあ、そうだが。」
「生徒からは贈答品を受け取らないんでしたよね?でも、元生徒からはどうですか?」
一瞬、考えてしまう。受け取るべきか、受け取らざるべきか。
「……まったく、君は。」
考えてみたところで答えは一つだ。受け取らない理由が存在しない。
「特別だ。開けるぞ……。ほう、君らしいな。」
君らしい選択だ。限りなくシルバーの万年筆。光の反射によってそれはきらきらと輝いて、まるで君のようだ。そう、君は無色透明な私に彩りを与えク照れる存在。手になじませるように、何度もタクトを振るように空中に字を連ねていく。
―ありがとう。気に入った。
さて、ここから先をどう書き連ねようか?不意に君に告げられた言葉に驚愕する。
「本当に好きな人が誰か気づきました。」
これが最後、だからここに来たのだろうか?
「その人はすごく背が高くて、厳しいことも言うけれど本当は優しくていい人で。」
真っ赤になって話すからこちらまでつられてしまう。……俺は気付いていた、君を想っていることを。だから、ちゃんと話さなければならない。肩に手を置いて、そっと告げる。
「家まで送る。……続きは車の中で聞こう。」
柔らかな夕日があたりを照らす。まるで真紅の絨毯のように。
エピローグ
「せーんせ!」
わしっと背後から抱きつくと、そこには照れてるようななんとも言えない表情で私を見ている氷室先生がいる。
「……いい加減に先生って呼ぶのはどうかと思うのだが。」
「だって、この方が言いやすいんですもの!……だめですか?」
もしも在学中ならすぐに私の腕を離して、いやいや私がこうして先生の背後で抱きついていることすら許してくれなかったのかもしれない。
「だめじゃないのだが……、その、だな。」
「じゃあ……零一さん?」
少し照れるけれど、思い切って名前で呼んでみる。あれ?耳まで真赤になってる!
「照れるのなら今まで通り……。」
「い、いや、照れていない!」
いいえ、十分に照れちゃってますよ、零一さん。私はこみ上げる笑いをこらえながら、ほんの少しだけ腕に力を込める。……大好きです、零一さん。
(end)
氷室先生の誕生日で甘口(?)ですw
たまにはこんなのもあり?
|
|