蒼い月の下で 本文へジャンプ
 『冷光』

今、君は誰を想う……。

 そう聞けたら、どんなに楽なんだろうか。俺は自分自身に問いかける。夕暮れ、少しひんやりした空気の中を歩いていく。本来ならば学校の帰り道にこうした場所に寄るのは良しとしない。
「氷室先生が寄り道しようというなんて珍しいですね。」
そう言って君は笑った。今日こうしているのは、実は偶然ではなく必然だ、そう言おうとして自らの言葉を飲み込む。俺はもしかしたら教師として持ってはならない感情を持っているのかもしれない。ただ、君が入学して俺が担任になってそれからずっと気になる存在であることには間違いないようだ。
 太陽が地平線ぎりぎりまで傾き、あたりは少しづつ闇に包まれていく。先ほどよりも若干空気が冷たく感じる。―一閃。
「ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素をATPが働くことで発光する。」
なるべく感情を押し殺しつつ、ホタルのぼんやりとしたやわらかな光に包まれる君を見つめる。
「ホタルに限らず、生物の発光は熱をほとんど出さない。つまり―。」
「冷光、っていうんでしたっけ?」
「そうだ。電気による光源と比較しても効率が非常に高い。」
冷光…、この光は熱をほぼ発していない。俺は君を想う、としてもこの光のように熱を帯びさせてはならない。
「さて、そろそろ帰るぞ。……家族が心配するだろう。」
君を誘い、車に戻る。君の髪に一対のホタルが瞬くのに気づかぬまま……。

(Fin.)


かーなーり、短いですwww
たしか、夏に蛍を見に行って、ふと思いついてがががーって書いた記憶がw